LOGIN俺の啖呵をマステルは笑っている。
確かに現実味なんて少しも感じなかっただろう。
俺は勇者であると語っていないし、奴は俺たちを羽虫だと言ったんだ。「さっさと始めようぜ? お前が戦うつもりなら」
オマケシナリオと同じであれば、倒す必要はない。
きっと一定のダメージを与えたのなら、マステルは去って行く。
ならば、俺はゲームと同じように一撃も食らわずにダメージを与え続けるだけだ。「追い詰められたネズミなのでしょうかね? しからば私はネコですか。たまには噛まれてみるのも悪くありません」
魔将軍マステルは六魔将の中では話せるタイプだ。かといって、ゲームと同じであれば戦闘は避けられない。
目的も方角も異なったけれど、恐らくこの邂逅はルカという魂に惹かれて成り立っている。必然的な出会いなのだと思う。
「運が悪かったと考えてください。これでも私は六魔将が一人。虫ケラであろうと、見逃すわけにはなりませんので……」
「こちとら不運は嫌と言
俺とリィナは入学までの期間をレベル上げに勤しんだ。とてもハードな毎日であったが、夜の営みがあったおかげで乗り切れている。 現在のレベルは俺が55であり、リィナが46。レベル50から上がりにくくなるのはゲームと同じらしい。それでも、騎士学校に入る前としては充分な強さを得ていた。 旅立ちを前に俺たちはクリステラ大聖堂で祈りを捧げている。一応は女神たちの意見を聞いておこうと。 隣り合う二人の脳裏に女神が降臨しているなんて誰にも想像できないことだろう。間違いなくリィナの脳裏にもセラ様が降臨しているはずだ。「久しぶりね、ルカ……」 意外な女神様の登場だった。 現れたのはシエラ。言わずと知れた悲運の女神である。「お前、存在してたのかよ?」「ルカがいつも朝に祈るからでしょう? 失礼しちゃうわ……」 女神が朝に弱いって話からして間違っているけどな。俺のせいにするんじゃない。「ま、誰でも良かったんだがな。とりあえず俺は騎士学校に入る。異論はねぇな?」「当然ですわ。私とて原初の三女神ですもの。世界が滅ぶなんてことは容認できません」 まるで俺が騎士学校へ入るだけで世界が救われるように話している。 俺だって世界救済を考えているけれど、現状は不安要素の方が多いというのに。「なら、お前はあの呪文の使用についてどう考えている?」 ディヴィニタス・アルマを俺に与えた張本人。せっかくなので悲運の女神シエラがどう考えているのかを知りたい。「それはこれまでのこと? それともこれからのこと?」「これからのことだ。お前は俺に協力する気があるのか聞きたい」 俺がディヴィニタス・アルマを使用すれば世界が歪む。現状からの改変は辻褄が合わなくなる可能性が高いと聞いたのだ。「言ったでしょう? 私は世界の崩壊を容認できないと。このままであれば世界は闇に呑まれる。魔神が生み出した魔王という闇は全てを呑み込もうとするわ。闇は光から生み出されるけれど、闇は何も生み出さない。女神が闇に呑み込まれるだなんて我慢ならないわ」「世界が滅びたら、お前たちはどうなる?」「心配してくれるの? 嬉しいわ。じゃあ、特別に教えてあげる……」 さっさと言えよ。別に心配したわけじゃないし。 薄い目をして見ていた俺だが、思わぬ話を聞かされてしまう。「光が失われた時点で女神は消失する」 えっと
俺とリィナは朝からクリステラの街門を出ていた。 言いつけ通りに騎士を付けたのだから、好きにしても構わないだろうと。「殿下、どこまで行くのです?」 既に王都が遠く霞むほど遠出している。当然のこと目的があってのことだ。「北にある森へ向かってるんだ……」 リィナは驚いている。 街道を外れていたのは分かっていただろうが、馬を駆る俺が目指している場所が森だと知って。「森で……ヤるのですか!?」「昨日のことは忘れろ!」 今もまだ昨晩のことを引き摺っているらしい。どうもリィナには衝撃的すぎたようだ。「レベル上げだよ。レベル上げ!」 要はリィナを鍛えるため。魔国との大戦に向けて、彼女のレベルを上げなければならない。「情事のレベル上げ!?」「ちげぇぇよ!!」 しばらくは夜に囚われたままなのかもな。まあ、リィナが昨日の夜を良く思ってくれるのなら有り難いけれど。「フィオナ殿下と破局しただろ? だから、リィナが戦えるくらいにレベルを上げなきゃならない。もうフィオナ殿下や錬金術士の力を借りられないんだ」 恐らく、この世界線で皇国側の戦力は期待できない。何しろ破局した皇女殿下だけでなく、錬金術士ミリアも皇家のメイドなのだから。 フィンについては最初から期待できないし、俺とリィナで世界を救うしかなくなったのだ。「セラ様が仰っていた未来ですか?」「ああ、俺たち二人で世界を救済する。覚悟はできているか?」 リィナは聖女であるけれど、剣術も嗜むアタッカーでもあった。レベルさえ上げておけば、彼女なら戦えると思う。「死後に残るはずの未練は昨晩なくなりました。いつでも私は戦えます」「助かる。矢面に立つこともあるんだ。騎士学校へ入るまでにレベルを50くらいまで上げておきたい」 基本的に最強スキルを覚えるレベル100になれば楽にクリアできる。フィオナがいないことを考えると、少しでも100に近づけておく必要があった。「今はまだ12ですけど……」「とりあえず、俺が瀕死に追い込む。リィナがトドメを刺せ」 馬を走らせた俺たちは王国の北部に拡がる大森林へと到着。早速と剣を抜き、魔物を捜し始めた。「殿下、大丈夫ですかね?」「問題ない。ファイアードラゴンなんかそうそう現れないし」 俺は自身の悲運を過小評価していた。 雑魚であるワーウルフとかワーラビットとか
私は朝を迎えていました。 婆や曰く、朝チュンと呼ばれるものです。 本当に私は女としての使命を果たしてしまったらしい。「凄すぎた……」 昨夜は想像を絶する戦いだったのです。 聞いてはいましたが、苦痛というよりも幸せを感じました。私は愛する殿下に寵愛を受けたのですから。「毎晩、求められるかもしれない……」 私の身体が持つのかどうか不安。いや、ベッドの上で死んでこそ真の女だと婆やが言っていたもの。望まれる全てを受け入れてこそ、女ってものよ。「リィナ……?」 殿下も目覚めたみたい。 寝ぼけ眼の殿下はとても可愛らしい。凛々しいお顔も良いけれど、こんな寝ぼけた殿下も最高よね。 まだ眠そうだというのに、殿下は私の髪に触れる。それはもう優しく誘うように。「殿下、今晩もだなんて……」「俺、そんなこと言った!?」 急に飛び起きるルカ殿下。ああ、裸体をあまり見せつけないでくださいまし! 私、まだ目のやり場に困ってしまうのです。「リィナ、俺は君のことを愛している。だから、無茶をするつもりはない。君の体調が良いときに少しで構わないんだ……」「あれが少しなのですか!? だったら目一杯はどうなってしまうのですか!?」 頭がパンクしそう。もし仮に昨夜が殿下にとって、物足りない夜であったのなら。 恐ろしいわ。やはり男性は夜に豹変するのね。 まるで魔物と対峙しているような感じだった。最低でも危険度三等級はあったのに、あれ以上があるだなんて信じられないわ。「落ち着けって。俺は……」「落ち着いてないのは、殿下の股間ですわ!」 朝から求められるなんて……。 でも、私は既に殿下の愛人と化したのよ。いつでも如何なる時でもお求めに従うだけ。「どうぞ……」「いやいや、これは朝だからだよ! まあ、体調が良いなら今晩も頼めるか……?」 ほらね? 殿下は何だかんだ言って、私を求めているのよ。
私たちはまだ愛し合っているんだ。再び私は殿下の愛を聞かされていました。 病気さえなければと思う。何事もなければ、既に結婚していたかもしれないのです。 互いが互いを愛している。なのに私と殿下はすれ違っていく。私の命が途切れたあとも、彼の人生は続いていくから。「私も殿下を愛しています」 気持ちを伝えるくらいは許して欲しい。 私だって未練があるんだもの。本当に良くしてくれる殿下に対して嘘など言えるはずがないわ。それに未練を残して死霊化してしまうなんて馬鹿なことだもの。 気持ちを伝えるだけ。 私はそう考えていましたが、思わぬ話を聞かされることに。「リィナ、あとで俺の寝室に来てくれ……」 えっ? それってもしかして? 瞬時に婆やの金言を思い出す。男性は直接的な目的を告げることなく、遠回しに要求する生き物なのだと。「ででで、殿下、わたわた、私を……?」 何を口走っているのかな。私って取り乱しすぎ。でも、今回に限っては勘違いじゃない。 殿下は私を求めている――。 私は確信していました。夜に寝室まで呼び寄せる理由が他にあるはずもないのだから。「皆まで言うな。今夜は少し冷えるだろ? 俺のベッドを暖めてくれ」 やはり濁して要求しているのだわ。 婆や、ありがとう。おかげで私は殿下の欲求に気付けたみたい。「承知しました。熱くなりすぎて眠れなくなっても叱らないでくださいね?」 私も濁して答えています。きっとこれが大人の遣り取り。婆やが話していた夜の駆け引きに違いない。「待ってるよ。君が俺の全てだ……」 あ゛あ゛あ゛あ゛っ! 私はこんな今も女として見てもらえている。 正直にフィオナ殿下のご尊顔を拝見したときには太刀打ちできないと考えていたのに。「末永くとは申し上げられません。しかし、今宵くらいは愛でてくださいまし」 百点満点じゃない? ひょっとして私は夜の女王なのかもしれない。完璧な受け答え
「騎士はリィナ・セラ・サンクティアに……」 俺の希望はそれだけだ。ゴツい大男なんかを付けられてたまるかっての。「いやお前、リィナは……」「父上、どうせお目付役でしょう? リィナは発作の頻度も高くなっていますし、皆が俺を心配するのと同じで、俺も目を離したくない」 発作が出るたびに薬を呑まなきゃいけない。 人知れず倒れたなんてことにならないように、俺の側に置いておきたいんだ。 嘆息しつつも頷く父上。どうやら俺の希望を汲んでくれるらしい。「分かった。騎士はリィナに任せよう」 一瞬のあと、全員が拍手をしてくれる。 元より皆が俺たちの気持ちを知っているんだ。既にフィオナとは破談になったし、何の縛りもなくなった。「陛下、私はそのような大役をお受けできません!」 ところが、一人だけ反対している。もちろん、それはリィナ本人であった。「リィナ、お主はルカを制止するだけだ。ルカの暴走を止められる人材が他にいるか? 儂は適切な人選だと考えておる」 父上に言われてしまってはリィナも受諾するしかない。断り続ける不敬は彼女も分かっているだろうし。「承知しました。殿下の安全を第一に考え、職務に邁進したいと存じます」 再び拍手が巻き起こる。 近衛騎士リィナ・セラ・サンクティアの誕生を全員が祝福してくれたらしい。「さて、全員解散だ。ルカの食事が冷めてしまう。気苦労をかけたな」 父上が手を叩くや、全員が後ろ髪を引かれながらも食堂をあとにしていく。 残されたのは俺とリィナ。恐らく父上は気を利かせてくれたのかもしれない。「殿下、本当に私で良かったのですか?」 飯を食べ始めた俺にリィナ。もう決まったことだというのに、彼女はまだ葛藤しているのかもしれない。「脳筋ゴリラに付きまとわれるなんて嫌だからな」「いやでも、少なからず安全だと思いますけれど……」「くどい。俺はリィナが良い。俺の側にいろ」 父上だって誰がなっても一
王都クリステラへ到着すると、もう夜になっていた。朝から何も食べていない。流石に腹が減って死にそうだぜ。「ま、何か作ってもらえるだろ……」 王族が住まう王宮殿であれば、24時間いつでも料理人が待機している。申し訳なくも感じるけれど、金貨くらい手渡しておけば喜んでもらえることだろう。「ルカ様!?」 クリステラ王城へと入るや、俺は使用人たちに囲まれていた。 そういやフィオナを追いかけるところまでしか知らないのだっけ。こんなにも遅くなった理由は分からないよな。「心配かけた。でも何の問題もない。それより腹が減ったから王宮殿に行く」 どうしてか行列ができてしまう。使用人たちは全員が俺のあとを追いかけてくるのだ。 そんなに心配だったのか? 俺はただの第二王子なのに。 王城の回廊を進み王宮殿に入る頃、俺は再び声をかけられていた。「ルカ様!」 その声は愛しのリィナ。振り向かずとも彼女が現れたのだと分かる。「リィナ、まさか君も心配してたのか?」「当たり前です! もしかしてイステリア皇国まで向かわれたのかと思いました」 ああ、そういうことか。確かに夜まで戻らなければ、心配くらいするわな。「とりあえず飯にする。リィナもついてくるか?」「もちろんです。私には弁明を聞く権利があるはずですもの」 弁明ね。心配をかけたのは事実だが、俺は謝罪が必要なことをしでかしたつもりはない。 まあしかし、ずらずらと俺の後をつけてくる使用人たちを見ると、かなり大事になっていたのは明らかだ。鬱陶しいから解散して欲しいのだけどな……。 ぶっちゃけると王宮殿は王族以外の立ち入りが禁止されているのだけど、どうしてか全員が俺の後をついて食堂まで来てしまう。 衛兵も止めようとしないって、どうなってんだよ? 行列には構わず、俺は適当に何か作ってくれと頼む。使用人用のテーブルへと座って料理が完成するときを、ただひたすらに待っていた。「あのな、俺はもうどこにも行かん